2013年1月1日火曜日

三人目【Shintaro Yoshida】そのレッテルを捨てろ



世の中には、「とらえどころのない人物」がいる。「どういう人?」と聞かれても、一言では表せない。形容し尽くせない。

しかし、人間は他者を見るとき、「◯◯の人」として認識しないと覚えておくことができない。形容しがたいその様子を無理にでも表現するため、人はレッテルを必要とする。「草食系男子」などがそれだ。

今回は、なぜか「草食系」に分類された人物のお話。



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某日、真木(筆者)の自室にて。



真木「うーん、あの人は ”草食系男子” なのか?この本にある説明に当てはまるのかなあ」。

僕はこのとき、「吉田慎太郎」という人物の記事を書いていた。彼は 草食系起業家 というキャッチフレーズで呼ばれている。ただ、会って取材した印象として、草食系に分類してよいのかよく分からないのだ。

では、草食系ではないとしたら、一体彼は何者なのか?ほかにふさわしい言葉が見つかったわけでもない。僕はモヤモヤしていた。




真木「あー書けないよー」。

何にせよまずは、彼と直接会ったときに見たもの、聞いたことを、ありのままで書いてみようと思う。

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吉田慎太郎(29)。髪はミディアムで襟足(えりあし)が長い。物腰は柔らかく、力まず淡々と話す人物だ。セミナー講師、インターネットのアフィリエイト、コンサルタント、IBOなど複数の仕事をしている。

この日、池袋のファミレスで僕らは会った。彼はトンカツ定食を頼んでいた。

真木「まずは、吉田さんの、ここまでの歴史を教えてもらえますか」。

吉田は「そうですね・・・」と語りはじめた。



【月収30万超えの高校生】


1983年、吉田は千葉県柏市に生まれた。彼が高校生だったころに両親は離婚しており、彼は高校を卒業したら働くよう言われていた。

ただし、吉田は「(それだけでは)ヤバそうだな」と考えたため、高校生でありながらお金の稼ぎ方を調べる。授業中に机の下でケータイをいじって情報収集していた。二つ折りの、白黒画面のdocomoのケータイから、問題解決の糸口を探していた。アルバイト代の全額に当たる6万円を毎月、ケータイ代に注ぎ込んだ。

結果、HPやメールマガジン(メルマガ)に広告を載せて収益を得ることに成功。月30〜40万円を得るようになった。



【経営者になる】

卒業後は就職も進学もしなかったが、月収200万円になった。19歳の頃には会社を設立した。

稼いだお金で物欲を満たしまくった。ルイ・ヴィトン LOUISVUITTON やクロムハーツ Chrome Hearts といったブランド品を買い漁る毎日。朝は口座から5万円を引き出し、1日でそれを使い切るという日々だった。30万円はする黒革のソファも買った。車にテレビにウオーターベッドも。欲しい物を買う瞬間は快感だったが、買い尽くしたときの感想は「面白くなかった」という。

一方、精神面では満たされておらず、従業員を雇うストレスから深夜は悪夢にうなされた。

これには説明が要るだろう。経営者は価値をつくろうとする一方、従業員は「出社すればお給料が出る」という考えで仕事をする。吉田が従業員を叱りたい場面もあったが、従業員は元は友達だったため、関係がギクシャクした。

病院に行くと「うつ」と診断された。このままでは危ないと考え、会社を休止して就職した。



【就職から複数事業へ】

それから、ケータイショップで販売の仕事を始めた。精神的に安定はしたという。吉田は社益を考える感覚があったため、トップセールスになった。ただし、好成績にもかかわらず、彼のお給料は手取りで23万円前後。大卒で年上の人より少なかった。

努力や成果が収入に反映されない。

このことで吉田は、お勤めについて「守られているけど、自分では決められないんだな」と再確認した。あらためて、ほかの事業を開始。副業を一つずつ増やして収入を拡大し、若くして会社をリタイアした。現在では10個ほどの商材を持っている。

収入面だけでなく、時間や人間関係のバランスも取れた仕事の仕方ができているという。



【吉田の謎】

歴史を一通り聞いた後は、吉田の価値観を聞くことにした。全質問を通して僕は「つかみどころがない」という印象を受けた。

(1)お金の使い方

吉田は、経営者だったころは若かったため、お金の使い道が分かっていなかったとの見方を示している。

真木「今なら何に使いますか?」

吉田「高額セミナーとかにお金を出して、自分が成長したり、勉強したりすることに使います」。

彼は、1回30万円はするセミナーについて言っている。今ならお金を自己投資に使うという。

それにしても、なぜセミナーにそんなにお金を使うのだろうか。この日の最後まで僕には分からなかった。

(2)メッセージ

真木「世の中や、これから出会う人にメッセージってありますか?」

吉田「そうですね・・・」。



・・・数秒の沈黙が続いた。もしかしてメッセージはないのか?

吉田「好きなことを仕事にしたらいいんじゃないでしょうか」。

好きだったら会社員でもいいけれども、せっかく人生の時間を使っているのだから、よく吟味してほしいという。

正論である。真っ当すぎて感慨がわかなかった。

(3)好きな遊び

吉田「自分、遊ばないんですよね」。

身もフタもない。話が続かなかった。





そのときである。僕は意外なことに気付いた。





…お分かりいただけただろうか?

吉田はトンカツをばっちり食べたが、キャベツは残している!

これは「俺は草食系ではない」という宣言だろうか?

取材は、キャベツが残ったまま終わった。

果たして、吉田のことを草食系と呼んでいいのだろうか?



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・・・というわけである。

だから僕は、自室で悩んでいた。

ギラつきのないさっぱりした人間にも見えるし、「仕事人間」にも見える。ただし「仕事人間」と言っても、昭和風の、書類の山を机に乗せて目から炎が出ているようなモーレツ系でもない。



一体、どう表現すればいい?


【そのレッテルを捨てろ】

”草食系男子” という用語について。『現代用語の基礎知識2012』によれば、「性欲が前面に出てこない内気な男子」とされている。2013年の最新版も同様だ。

吉田は一応、この定義に当てはまる。吉田の今までの恋愛は必ず告白されてから始まったのだという。それに僕が見る限り、性欲を前面に出すタイプではいない。

ただし、性欲が前面に出てくる男子って、そんなに多数派なのか?少し前はいっぱいいたのか?

恋心を押し殺して特攻した戦中男子も草食系か?

この定義に従うと、世の中は草食系男子だらけということになる。



この用語は、かなり大雑把な、しかも意味の定まらない言葉なのではないか?



補足すると、”草食系男子”という用語は時代とともに少しずつ意味も形態も変わってきているようだ。

使われはじめたのは2006年、深澤真紀というコラムニストの著書『草食男子世代─平成男子図鑑』からだとされる。この見方に従えば、深澤がこの用語の名付け親ということになる。

しかも、この時点では”草食男子” であり、”系” はなかった。

深澤は「恋愛やセックスにガツガツしていなくて、男女の友情も築ける存在」という、前向きなニュアンスでこの言葉を使ったのだった。

ところが、時と共に使われるニュアンスが変わる。女子からは「男子がオクテだから恋愛が始まらない」と言われ、目上の世代からは「物欲がないから消費もしない」と言われるようになる。

少子化も、車が売れないのも、草食系男子のせいだと思われているかもしれない。



さて、ここまで意味が拡大した用語で人を表現していいものか。

雑談ならまだしも、このページは取材した相手の「在り方」「様子」を真面目に伝えるためにある。

草食系 とレッテル貼りすれば記事はラクに仕上がる。ただし、それは安易な言葉を使って誤魔化すことだ。「吉田慎太郎」というテーマと格闘するのを放棄することになる。



真木の敗北宣言になるのだ。



「僕は吉田さんを表現できません。僕の理解力と表現力では無理です。だから草食系ってことにして、それ以上考えるのをやめます」と言っているようなもの。

それでも、ゴマカシを気にせず生きていくこともできる。だけど、僕は、それが、嫌だ。



だから、草食系男子 という表現はやめよう。そのレッテルをはがして捨てて、「吉田慎太郎」のありのままを見る。

もう一度書いておく。

レッテルを捨てて、ありのままを見るのだ。



やることはシンプルだ。もう一度取材するんだ。今度は別の角度から。

後編に続く

(取材・執筆=真木風樹。本文の文責は真木風樹にあります)。

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