アベユミカとのデートは2時間前に決まった。僕は彼女が待つビュッフェラウンジへの道のりを歩いている。
細い美脚と豊満なバストを兼ね備えた彼女は、「ユミカ様」と呼ばれることもある。確かに両立しがたい魅力だが、僕は絶対に「様」なんて付けない。
むやみに人を崇拝したり、あるいは逆に軽く見たりすれば、それが文を歪めることになるからだ。これは、相手がエラい「先生」でも、男を虜(とりこ)にする小悪魔でも、一切変わることはない。
そう、変わることはない。
ラウンジに着いた。彼女は男といた。何と、デートのお相手はもう1人いたのだ。
僕もそうだが、2時間前に彼女がFacebookに「誰か遊ぼう?デートしよ?笑」と投稿したのを見て、彼も来たのだという。
ちょこっと投稿しただけで短時間にデートの相手を複数見つけている。投稿したのは午後3時だから、来られる人間は限られているのに。す、すごいな。
あぁっ・・・ユミカ様っ・・・!
・・・やっぱり、「様」を付けてしまった。
ユミカ流は「気高く清く美しく」
僕は先にいた彼とバトンタッチし、ユミカと2人でカフェに移動した。なお、ここからはユミカと呼ぶことにする。
油断すると「ユミカ様〜ほえ〜( ´ ▽ ` )」などと言いそうになるが、ぐっと抑えておこう。他の人物を書くとき同様、敬称は省くことにする。
ユミカの言葉は気持ち良いくらいに自信満々。
「真木くん、こんないい女連れて歩いてると言うブランディングにもなるし、セルフイメージも上がっちゃうよ?笑」。
これは、一緒に歩いている僕も株が上がるし、自分自身へのイメージが上がってしまうという意味。自分へのイメージの高さというのは、成功する要素につながり得る。
この自信満々な発言も、冗談などではなく実際に当たっている。
ただし僕には気になることがある。ユミカの発言にはごくたまに、他人が経験しないような過去をほのめかすものがある。抗うつ剤に詳しかったりもする。
僕は、「過去に色々あったようですが」と切り出した。
ユミカの複数ある仕事のメインはマッサージ師。
だが本人が肩が凝って仕方ないという。そりゃあそうでしょうよ。
【ユミカの歴史】
「相談できる人なんかいなかったね。ははははは」。
過去のことに話が及ぶと、深刻さを感じさせない大胆な笑顔を見せてくれた。
彼女には、自信がなく、人に心を開くこともできなかった時期があった。そんな時期を「過去のこと」と思えるようになったのも、つい最近のことだった。
彼女の歴史を聞いてみよう。彼女は群馬にある父方の祖母の家で育った。両親は彼女が2歳の頃に離婚している。
父親は三味線を弾くことを仕事にしていた。「女遊びは芸の肥やし」ということなのか、女を取っ換え引っ換え。離婚歴は、「たぶん」5〜6回だという。一緒に暮らしたことのない子も含め、ユミカには異母きょうだいも多い。
小学2年生の頃には「ウチの家庭は人と違うんだ」と気付きはじめる。一緒に暮らした女性が夜中にいなくなったこともあった。ユミカは、父が女性に暴力を振るう男だというのも知っていた。4年生の頃には、父と付き合った女性たちの気持ちを想像するようになっていた。
また、借金取りが実家に来たこともあった。当然、居留守。それを悟られぬよう、夕飯時も電気を最小限にしていた。取り立て電話におびえていたため、電話が鳴ると今でもドキッとするという。
「自分の家庭環境は劣っている」「お金がない」「それは父のせい」という思いがあった。この劣等感は長引くことになる。
いつも強い子だねって言われ続けてた
泣かないで偉いねって褒められたりしていたよ
そんな言葉ひとつも望んでなかった
だから解からないフリをしていた
(浜崎あゆみ『A Song for XX 』より)
あゆの歌が好きで、特に初期のネガティブな歌詞に共感していた。
ユミカ「それだけネガティブだったんですよ(笑)今は微塵もないけど(笑)」
大学時代は、金銭的に実家に頼ることはできなかったため、奨学金を借りながら自力でバイトしていた。「自分で稼いでやるよ!」というくらいの気持ちだった。
彼女は水商売を始める。自信がなかったのに意外だと思えるかもしれない。ただし、彼女はその気になれば社交性を発揮できる人間だった。
それでいて他人に対し、「きっと自分の気持ちは分からない」と思っていた。だから「本当の自分」ではなく「数cmズラした自分」を見せていた。同じ大学の人にも水商売をやっていることを話していなかった。
さて、水商売を始めたものの、そこでも女の子が傷付く場面を目の当たりに。スカウトマンによって都合の良いように使われたり、ホストにはまってしまったりする女の子がいた。そして、心を曲げて接客する苦しみがあった。
「心を曲げる」苦しみについて。人は「思っていること」「言っていること」「やっていること」の間にギャップがあるときにストレスを感じる。一般的な会社員も、本音と建前を使い分けるときは嫌だろう。ユミカによれば、その点でお水の子たちの苦しみは会社員以上だという。
彼女たちは上手く駆け引きして立ち回っているように見えて、実際は心のバランスを崩すくらいに苦しんでいる。「うつ」になり薬剤を使う子もいる。ユミカ自身が抗うつ薬である「デプロメール錠」を摂取していた。
ユミカはこの頃、冗談っぽく「わたしキレイだから」などと言うようになってはいたが、家に帰ると落ち込んでいた。
長い間、自信など持てず、「わたしは何のために生まれてきたんだろう?」と悩み続けていた。
なお、デプロメール錠とは、抗うつ薬の一種であるフルボキサミンの商品名。これは、脳内でセロトニンのみを選択的に神経に取り込まれないようにすることで、脳神経のつなぎ目にあるシナプス間のセロトニン量を増やす薬「SSRI」の一種。脳内でのセロトニンの不足が、うつ病につながるとされる。よってSSRIにはうつ病などへの効果もあるが、▽吐き気▽焦燥感▽24歳以下の服用者が自殺を図るリスク──も指摘されている。
後編に続く。
【Yumika Abe】自信がなくても、いいよ(後編)
(取材・執筆=真木風樹。本文の文責は真木風樹にあります。筆者である真木風樹と、取材対象者であるアベユミカ氏以外による無断転載・使用はお断りします。転載・引用の際はご一報ください)。



1 コメント:
いやーこういうの面白いねw
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